引っ越し屋の妄想観察録・第四話 繁華街のホストの引っ越し

オリジナル小説集

第4話:繁華街のホスト編

朝10時、今日は1LDKの引越しだ。
現場は川崎駅近くの賑やかな商店街を少し抜けた住宅街。ビルが並ぶ狭い道をトラックで慎重に進む。

「今日の物件、少量っすね」
田口が言う。新人らしくヘルメットが少し大きい。

「うむ、作業自体は単純だ。だが気を抜くな」
俺は小声で注意を促す。偏見だけど、この部屋、何か匂う……。

部屋は築十年ほどのマンション一室。扉を開けると、香水の甘い香りが漂う。壁にかけられた鏡、キラキラ光る小物、ブランド袋がいくつも置かれている。
棚の上には薄型のテレビと、無造作に置かれたファッション雑誌。見るからに「見せる生活」。

依頼主は二十代後半の男性。長身、髪の毛はぼさぼさで、ジャージ姿、眉毛は半分ない。しかし顔立ちは全体的の整っている。
挨拶は爽やかだが、どこか舞台慣れしたような立ち振る舞い。
このギャップは。。。

そう思い、すぐさまリビングのテレビ台に目を向ける。大型の液晶モニターの横に置かれた写真には、依頼主の本当の顔が映し出されていた。

長身にしっかりとしたメイク、びしっと決めたタイトなスーツに、きらびやかな背景。
間違いない。「ホスト」だ。

「よろしくお願いします」
声は落ち着いているが、肩や指先の仕草は計算されているようだ。

「こちらこそ、搬出作業からです」
俺は簡単に手順を説明する。彼は黙って荷物の確認をするだけで、作業に干渉してこない。

段ボールは少なめ。服はハンガーに整然と掛かっており、バッグや靴もブランド感が強い。
家具は最低限。ソファはなく、折りたたみ椅子と小型テーブル。
でもどこか華やかで、生活感が微妙に漂う。言うなれば「見せる生活」の痕跡だ。

「……なんか、住んでる人が全部わかりそうっすね」
田口がつぶやく。

「黙って作業しろ」
俺は言う。
まだ妄想を口に出すタイミングではない。

作業は順調に進み、トラックに積み込む。
彼は手伝う様子もなく、ただ見守るだけ。むしろ、スマホでスケジュール確認している感じだ。

「ではこれで搬出完了です。トラックで荷物運びますので新居にてお待ちください」
俺が告げると、彼は軽く会釈した。

「ありがとうございます」
無駄に飾らず、礼儀正しい。

部屋のドアを閉めると、街の喧騒が戻ってきた。
外観と生活のギャップ。見た目と中身、どちらが本当なのか――それはトラックの中でのお楽しみだ。


妄想スタート

トラックのエンジンをかけ、移動を始める。
俺と田口は荷台を見ながら、妄想の時間だ。

「で、あの人、絶対ホストっすね」
田口が言う。

「あぁ。そうだろうな」
俺はハンドルを握りつつも、目を細める。偏見フルスロットルはこれからだ。

相馬:「まずあの人、絶対SNSに自撮りアップしてる」
田口:「あー、わかります。しかもナルシスト全開で『今日も完璧』みたいなやつ」
相馬:「スマホのフォルダー、半分以上自分の顔の写真だろ」
田口:「他人から見たら10枚中9枚同じ写真に見えるやつなwww」
相馬:「それを夜のルーティンに組み込んで、『これで今夜もお客様満足』とか独り言で言う」
田口:「部屋中に香水や小物を配置して完璧演出。歩くたびに匂いが漂う」
相馬:「鏡の前でポーズの練習してるに違いないw」
田口:「『笑顔は最強の武器』とか思いながら」


相馬:「あ、服も派手だけど、色合わせ完璧。髪型も計算されてる」
田口:「なるほど、夜は遊ぶけど昼は寝てるイメージ。自炊? してない。プロテインとサラダだけ」
相馬:「バッグも靴もブランド感強めで、生活の中の余計な荷物は持たない」
田口:「身軽! でも見せたいものは見せる、完璧に演出」
相馬:「恋愛も派手そう。けど、意外と律儀かも」
田口:「え、どういうことっすか」
相馬:「営業時間中はサービス全開。オフタイムはちゃんと家計管理してる」
田口:「ほー、見た目派手でも生活は意外と堅実」
相馬:「ヨガマットあったし、健康にも気を使ってる」
田口:「なるほど、華やかさと実用性のギャップ萌えっすね。……ホストってこんなイメージ強いですよね」」

相馬:「見た目や職業だけで勝手に判断すると痛い目見るかもしれないぞ?」

そして新居に到着。荷物を運び入れる。

全ての荷物を運び終えるころには依頼人は朝見たときとは別人の様相だった。
メイクはばっちり、タイトなスーツに、セットされた髪型、うっすら香る甘い香水の匂い。

「これで引っ越し作業は終わりになります」
俺たちは依頼主に作業終了の挨拶をした。

「お疲れ様でした。今日は本当にありがとうございました」
ホストは柔らかな笑顔で2人にジュースを渡す。

「え……すごく、いい人だ」
田口と二人、顔を見合わせる。
やはり見た目と職業だけで人を判断してはいけない。
今日の妄想劇場は、そう締めくくられた。

※これは相馬と田口の妄想であり、必ずしもこの妄想の限りではない。

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